(残念なことに既に壊したという話のが圧倒的に多いのですが)
家を解体する前に庭木や庭石をもらって欲しいと言われる同業者の庭師さんからの話です。
当然ですがそんな話がくるのはとても良い家ばかり・・・
出来る事なら住みたい家だってあります。
持ち主だってできることなら壊したくないけど維持費がかかるとか、今のうちに壊しておかないと費用がすごいからと理由は様々です。
庭木と言ってもその場所に何十年といた訳なので簡単に移植ができる訳ではありません。
ずっと植わっていた木は一年前くらいから根を切り、新しく細かい根を出させて移植に備える必要がありますが大抵は一週間後には壊しますという感じです。
かろうじて、庭石などは運び出すことが出来る場合もありますがそれでも多くは大きすぎて不可能な事が多いのも現状です。
これはあくまでも持ち主のご好意によるものなので、解体屋さんにとっては自分たちの仕事の邪魔をして欲しくないので結局あきらめざるを得ない場合が多くなります。
解体屋さんが壊しながら目的の木や石に到達したら仕事を止めて待ってくださいとは言えませんから。
私は庭もそうですが、古い家が壊される事がとても悲しい。
古い家は今の技術では出来ない技が使ってあったり、材料が使ってあります。
それらが「ゴミ」となって捨てられるのが嫌なのです。
かといって大きな梁などはもらっても自分では動かせません。
なので、自分でも運べる古い建具や古道具、古い食器などがあればもらってきます。
もちろん自分で全部いる訳ではないのでもらって来ては欲しいという人がいると差し上げています。
昨年は明日から壊すという古い家から漆器類を大量に貰い受け自分の家には一個だけ頂き、他は4人の方にもらって頂きました。
書いているとなんでこんなことしているのかしら?と思いますが、処分される運命の物達を見てしまうと欲しい人には素敵な物なのに、要らない持ち主にとってはゴミとなる事が可哀想で自分では要らないと思いつつ、欲しい人がきっといる。と思っちゃうのですよね・・・。
そして実際に喜んでもらって頂けるとすごく嬉しい。
そして、先週。
やはり明日から解体という昭和8年に建てられた住宅。
漆喰で塗られた洋間もあり、本床の間が1階、2階にもある素敵な住宅でした。
部屋は綺麗に片付けられて何もありません。
建具を頂こうとお話をしていたのですがポツンと箪笥が座っていました。
聞くと着物も入っているそうですが、要らないとの事!
下さい!と即座にお願いしたらまだ箪笥ありますよと通された別の洋間。
私が今までの人生の中で見た箪笥の中で一番美しい箪笥でした。
取っ手は全て真鍮です |
昨年94歳で亡くなったお母様が20歳でお嫁入りに持って来た箪笥なのだそう。
単純にいっても75年前の箪笥です。
もちろんお嫁入り前に作られている訳なので80年は経っているはずです。
・・・
解体初日はこの屋敷を壊すのを悲しんでかの今年初の雨となりました。
雨で濡れては箪笥も可哀想だし、着物も傷みます。
解体屋さんにお願いして翌日に引き取りに伺いました。
箪笥はもちろんですが、中に入っていた着物も今では作れない色や刺繍。
繊細で柔らかくて優しい肌触り。
襦袢と合わせて入っていた振り袖 |
仕付け糸がついたままの古い古い着物もあります。
こんな素晴らしく美しい箪笥を持ってお嫁入りした方はどんな方だったのだろう・・・
本当に蝶よ花よと育てられたお嬢様だったのだろうなと思いを馳せます。
私はこんな美しい着物は着物としてとっておきたいと思います。
どうせ着ないのだから解いて他のものに作り替えた方が着物が喜ぶと考える方もいると思います。
けれど着物はやはり着物だから美しい。
解くなら虫が喰ってアクが出てしまい本当に着物として用を足さない物だけにしたい。
でも、いくら素晴らしい箪笥を持ち、美しい着物をたくさん持っていても、生まれた限り、必ず終わりが来ます。
命のはかなさ、無常を感じながら箪笥や着物を見つめています。